生きる意味・命の大切さ学ぶ―横井庄一さんのグアム島28年「生路抄」

サバイバル体験をイラスト本に 厚木市愛名の岡田裕子さん 『長寿萬福』を出版 

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 厚木市愛名に住む整体師・岡田裕子さん(39)=写真上=が、72年グアム島から奇跡の生還を果たした旧日本兵・横井庄一さんの28年におよぶサバイバル体験をイラストに描き、自費出版した。
 グアム島のジャングルの様子や食生活を支えた木の実や食物、火起こしや衣服縫い、食生活の道具、地面を掘って住処にした穴の住居などをていねいに描き、横井さんのサバイバル生活を絵本にした。
 岡田さんが横井さんに興味を持つようになったのは今から20年前の大学2年の時。日本テレビが放映した水曜スペシャル「ザ・サバイバル」に参加したのがきっかけだった。番組は7人の女性が横井さんと一緒にグアム島で2週間のサバイバルを体験する=写真下=というもので、ナイフと水筒、鍋1個以外は何も持たずに、ジャングルで火の起こし方、魚の捕り方、食料になる植物の見分け方、寝ぐらの作り方などを教わった。      
 短期間とはいえ、人間が文明の力のまったく及ばないところで生きていく体験は、やることなすことすべてが驚きの連続だった。その時の横井さんは、町では物静かな人なのに、ひとたびジャングルに入ると、足も身体の動きも早くなり、岡田さんはその時「この人はただ者じゃない」と感じたという。
 これがきっかけで、その後も横井さんとの交際が続いた。ところが95年、岡田さんは欧州旅行先のドイツで交通事故に遭い、数ヶ月間死の世界をさまよった後、帰国してから意識が戻るというサバイバルを体験をしてしまった。岡田さんはリハビリを続けながら、少しづつ治っていく身体と、いつまでもくじけたままの心を抱え、日々「生きることの意味」をボンヤリと考えていた。そして世の中の喧噪に心をかき消されながら「何でこの騒々しい社会に戻ってきたんだろう」と日々自問自答していたという。
 そんな時、横井さんから力強い「長寿萬福」という一幅の書が送られてきた。人が生きていけば楽しいこともあるが、それと同じくらい辛く悲しいこともある。想像も及ばない苛酷な運命に翻弄された横井さんからのこの言葉には、照れ屋で無口だった横井さんの深いメッセージがずっしりと込められていて、生きることの幸せさ、命の大切さ、生きることの意味をしみじみ感じ取ったという。
 その後、奇跡的に回復した岡田さんは、退院してからボランティアやアルバイトを続けながら、命や身体のことをもう一度勉強しようと健康専門学校に通い、2年間で整体師の資格を取得、自宅で整体院を開業した。      
 横井さんは97年に心筋梗塞で亡くなったが、岡田さんは命の大切さを教えてくれた横井さんの記録を残しておきたいと、仕事の合間を見ながら、グアム島での横井さんの28年間に及ぶサバイバル体験をイラストにして描き始めた。
 
 イラストにはグアム島のジャングル、生活を支えたバナナやパパイアなどの木の実や植物、火の起こし方、ヤシ油のとり方、野ネズミなどの野生動物の捕り方と血抜き、カエルの肝臓を干して使った胃薬、パゴの繊維で織った衣服、28年間の間に6回も掘った穴の住居などを水彩絵の具を使って描き、コメントをつけた。
 本のタイトルは横井さんからもらった書をそのまま生かして『長寿萬福』=写真中=と名付けた。岡田さんは、「横井さんのグアム島での生活を想う時、動物である人間横井さんが、動物の気配を消して限りなく植物に近づいていったような気がしてなりません。常に五感をとぎ澄ましていた横井さんの真似はできるはずもありませんが、便利なコンピュータ社会の中で、ほんの少しだけ自分のアンテナを磨いて鋭くすることなら、私たちにもできるかもしれません。横井さんを通して子どもたちに生きることの大切さを学んで欲しい」と話している。
 B5判45頁。1部1.500円。購入希望の方は市民かわら版出版局へ。送料310円。

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