『あつぎハーモニカ物語』出版   愛川町の岡本吉生さん

 

 岩崎重昭さんモデルに大衆音楽の側面史まとめる

 愛川町中津でハーモニカショップを経営する岡本吉生さん(55)が、このほど『あつぎハーモニカ物語」(市民かわら版社)を自費出版した。福音ハーモニカの名手として活躍する一方で、世界のトップに立つ多くの若手奏者を育てた厚木在住の岩崎重昭さんの70年におよぶハーモニカ人生を軸に、厚木と日本のハーモニカの歴史をドキュメンタリー筆致でまとめている。
 02年から04年までの3年間にわたって「市民かわら版」に連載したものを再構成、加筆したもので、福音ハーモニカの演奏を音楽性に富んだ芸術といえる領域にまで高めた岩崎さんと、多くの弟子たちが国際的な舞台に立ち、「ハーモニカのまち厚木」をいかにして築いていったかを詳細に記述している。
 岡本さんは大学卒業後、文芸図書の出版社に勤務。その後生まれ故郷の愛川町で書店を開いた。小学生の時に初めて触れたハーモニカの音色に魅せられ、15年前より店の一角にハーモニカを並べた。98年に書店の経営が行き詰まり、ハーモニカ専門店へと転業したのを機に、ハーモニカ教室や学校、コンサート、ライブの企画、教室での指導や自らも演奏者として全国を回り、多くのハーモニカ奏者と交流を深めてきた。
 岡本さんは戦争と窮乏という激動の時代、ハーモニカに生きた岩崎さんの人生にひかれ「いつか厚木のハーモニカの歴史をまとめてみたい」と思っていたという。「市民かわら版」への連載がスタートしてからは日夜、岩崎さんのところに通い、岩崎さんの足跡を辿る一方で岩崎さんを取り巻く人間関係やエピソードなどを取材した。ちょうど厚木市が「ハーモニカのまち」としてアジア大会などの活動を支援した時期とも重なり、各方面から好評を博した。
 今年、ハーモニカショップ開店10周年を迎えたことから、単行本にすることを決め、連載では抜け落ちていた分野を再取材、ハーモニカの歴史なども調べ直した。大正・昭和初期の日本のハーモニカの前史から、岩崎さんの誕生、川口章吾や佐藤秀廊との出会い、戦時下のハーモニカ、新潟、座間、大和へのハーモニカ指導、弟子たちの巣立ち、ロシアへの演奏旅行、トリオやアンサンブルの結成、オーケストラとの共演、全日本コンテスト3連覇から厚木の黄金時代、国際ハーモニカフェスティバルとアジア大会に至るまでの動きをドキュメンタリー風にまとめている。最終頁には8月に岩崎さんが開いたハーモニカ人生70周年祝賀の模様も収録、まさに厚木のハーモニカの歴史を総括する内容となった。
 単行本には、練習の合間や演奏会場の記録として録音された岩崎さんの「荒城の月変奏曲」、麻溝小学校リード合奏団の「歌劇セミラーミデ序曲」、厚木ハーモニカトリオの「めだかの兄妹」など12曲の音源CDが特別附録として収められた。
 岡本さんは「岩崎さんが元気なうちにカタチにできてよかった。日本の音楽史の傍流という大衆音楽の側面史としてだけではなく、人間が壊れていくこの不安な時代に、人間復興の物語として読んでいただければ嬉しい」と話している。
 B6判300ページ。1部2000円(送料別)。コアアートスクエアで販売中。電話286・3520番。(2008年12月1日)