病気と健康

NO5(2002.05.01) スポーツ(運動)と健康

東名厚木メディカルサテライト
総合健診センターセンター長

稲垣 敬三

 私達にとってスポーツとは、日常的にスポーツ新聞にみれれるような “競技スポーツ”のイメージが強く、身体や精神の鍛練と考える傾向があります。
 しかし、スポーツ(Sport)の語源は、ラテン語のdeportare(もち去る、移る)から由来しており、気晴しや楽しむといった意味の “ことば ”で、本来遊戯あるいはリラクゼイションとして考えられていました。
 たしかに近代スポーツは、それを “身体精神活動 ”として研究され、オリンピックなどで、より速く、より高くといった競技の色彩が強くなってきましたが、スポーツ(運動)は本来の意味において我々の健康に極めて密接で大切なことなのです。スポーツとしての身体活動と労働としての身体活動との違いは、自己の意識と欲求によって行う自由さにあります。
 我々の身体は使わないと廃用性萎縮といって、骨折後ギブスで固定状態に置くと筋肉が萎縮減少し力が入らず、関節なども硬くなって動かなくなってしまいます。身体の活動(使用)は我々の体に刺激あるいはストレッサーとして作用し、生体はそれによって生じた変化に適応しようと反応します。この適応反応が身体精神を調整し、能力を向上させることになります。つまり、適切な運動負荷により、血液の循環が改善され、からだの細胞や組織での酸素消費効率が良くなり、エネルギー代謝や自律神経機
能が調整され、ホルモンや免疫能が活性化されるわけです。
 したがって適切なスポーツ(運動)は、健康増進、体力づくり、機能不全や障害の改善に有効な働きをすることになります。
 たとえば肥満に対し体重減少、高血圧には降圧効果、糖尿病ではインシュリンの感受性の改善、高脂血症には中性脂肪や悪玉コレステロールを低下させ、善玉コレステロールを増加させるなどの効果が認められています。しかし、過度の負担や無理な運動は、ストレス過剰で逆に弊害となり、スポーツ障害や重篤な心身の失調の原因となりますので注意が必要です。
 では適切な運動(活動)の強度、時間、種類とは、どのようなものでしょうか。これは、まず個々の身体的状態(年齢、栄養状態、身体能力、日常の運動量、疾病の有無など)や外部環境(気温、湿度、室内あるいは屋外など)の諸条件によって異なります。
 したがって厳密には、スポーツ医(あるいは掛かり付けの医師)の診察指導による運動処方にそって運動を行うのがよく、特に疾病のある方はかならず医師、保健師に相談して下さい。  
 しかし、これは通常健康で、日常業務をされている方には難しいことです。ではおおよその目安は、無理なく最低30分続けられる運動強度で、軽く汗をかき、すこし呼吸数が上がる程度の運動と考えればよいでしょう。なお、運動溜めは出来ませんので、毎日30分から1時間ぐらい行います。短期の激しい運動(無酸素運動)よりは、全身を動かす緩やかな運動(有酸素運動)が有効です。散歩、ジョギングなどが実行可能なものと言えますが、全身を動かす徒手(ラジオ)体操などを組み合わせることも有効です。また職場の休憩時間にストレッチを行うのも良いでしょう。
 なお、運動による健康を考えるとき、重要なのは同時に適切な栄養や休息をとることです。食事は腹8分目で、規則的にバランスよく摂取し、過労に注意して下さい。

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