|
東名厚木メディカルサテライト
総合健診センターセンター長
稲垣 敬三 |
“たばこが健康に悪い”ということは、今や誰もが衆知の事実と言ってよいでしょう。WHO(世界保健機構)を初め「たばこのない社会」を目標とした“禁煙運動”は、世界各国で取り組まれており、事実先進国での喫煙率は徐々に減少傾向にあります。交通機関、公共建造物内、また各職場でも禁煙が義務付けられるようになり、喫煙可能な場所は次第に狭められてきました。これは喫煙者だけでなく、非喫煙者に於けるたばこの健康に対する有害性を配慮するからです。
WHOの統計では、世界中で毎年、少なくとも300万人がたばこが原因で死亡しているといわれています。実際喫煙者のかなりの人が、禁煙しようとしています。しかし喫煙習慣を完全にやめることは難しく、また現にたばこの販売が行われています。
喫煙は有史から行われてきた生活習慣で、酒と同じく最初は神事祭礼の儀式との関連があったと考えられています。わが国には室町末期に伝来し、以後生活習慣に根付いたものと思われます。
では「タバコ」とは、どんなものなのでしょうか。通常喫煙されている煙草は、ナス科のニコチアナ・タバクムという植物で、アルカロイドのニコチンを含んでいます。たばこ喫煙の有害性は、当然、煙に含まれる多くの化学物質であり、ニコチン、タール、一酸化炭素、刺激物、発がん物質(ベンゾピレン)などです。これらの物質の喫煙が健康に与える主な影響は、以下のような点が上げられます。
鼻、口腔、咽喉頭、気管気管支、肺までの呼吸器系には、直接刺激、直接作用として気道粘膜の炎症性破壊、変性を起こすことで、慢性気管支炎、肺気腫、また肺癌を初めとする悪性腫瘍などの発症因子となります。
循環器系には、ニコチン、一酸化炭素などの作用が血液、交感神経、血管に障害を起こし、低酸素状態、高血圧、動脈硬化、血栓形成から高血圧症、狭心症、心筋梗塞、脳卒中を生じることになります。
発癌因子は、タールなど直接作用のほか、遺伝子に変異を起こすことが解っており、喫煙者では呼吸器系にかぎらず全身の臓器での発がん率が有意に高くなっています。
このような害が解っているにもかかわらず、禁煙が困難なのはニコチンに嗜好性があるためなのです。ニコチンは、中枢神経や自律神経に作用し、気分の高揚、集中力や注意力を高め、学習能力を上げるといわれています。
最近禁煙を行うにあたって、嗜好性(習慣性)からの離脱を容易にするための“代替療法”がすすめられ、ニコチンガムやパッチが発売されています。しかし禁煙を成功させるためには、禁煙の動機と意志がなにより大切です。喫煙の有害性は、喫煙者本人だけでなく、受動喫煙する非喫煙者にも影響します。また嫌煙者にとっては、極めて不快なことであります。喫煙場所を限定される(分煙)など、喫煙者にとては不自由さはありますが、嗜好としての喫煙には当然マナーが必要となります。嗜好も健康もそれぞれの自己管理が基本ですが、周囲(社会)のことも考慮して快適な生活が出来るようにして下さい。
|