言葉と精神の離乳食★わらべうた

大熊進子

NO.12

 お盆のほうずき

ほうずき
 さのやの糸桜 盆にはどこもいそがしや 東のお茶屋のかどぐちに 赤前だれに繻子の帯 ちょっと寄らんせ はいらんせ きんちゃくに 金がない のうてもだんない はいらんせ おう辛気 こう辛気 よいさっさ よいさっさ これから八丁 十八丁 八丁目のこぐりは こぐりにくいこぐりで 頭のてっぺん すりむいて 一貫膏薬 二貫膏薬 それで治らな 一生の病じゃ
 これは京都の盆歌です。関東もんの私がふと本で覚えました。「さのやの糸桜」のほうはそれほど違和感もなく、可愛い歌だなと思いながら歌っていました。「よいさっさ」の方は何となく舌で転がしているとき、やはり関東の人がマーチのテンポで太鼓の伴奏をつけて「よいサッサドコドン」という感じでやっているのに出くわしました。
 なんか変だなあと思いながら、ハッと思い当たって関西の人に読んでもらったら私とアクセントが違っていました。それでも何か納得できずにいたら、鳶尾の「ひよこコミュニティ」の塚田先生が、『おじいちゃんが子どもの頃、この歌を歌って街を歩いたって言ってました』とおっしゃって京都弁のアクセントでゆっくり歌って聞かせてくださいました。私とイントネーションも違うし、テンポもM=80 位でした。
 後で本で調べたら京都の男の子たちが赤で男紋を描いた白の弓張り提灯を持ち寄り、一本の竹竿にズラリと通す。その両端を二人が担ぎ、後の子は拍子木で囃しながらみんなで「よいさっさ」を歌って歩く。女の子は白く女紋を染め抜いた紅提灯をめいめいが持ち、「さのやの糸桜」を歌う。とありました。
 京都の高橋美智子先生にお電話でお聞きしたら、お母様の時代まではこういう行事があったそうで、それはそれは美しく、まるで回り灯籠を見るようだったそうです。
 そういえば義父の新盆の年、九州の箱崎海岸で精霊を流しましたっけ。悲しく美しく、たくさんの精霊が海に浮かび、ゆらゆらと沖に向かう絵が脳裏に見えます。誰かが精霊を追うように泳いでいたような気もします。たくさんの民族の数だけそれぞれの風習があったのでしょう。最近ではどれだけ残っているかしら? 自然環境保護のために残したくても残せなくなった風習も多くなりました。風物詩も消えざるをえなくなりました。
 「からすかねもん かんざぶろー おまえのうちが もえるぞー はやくいって みずかけろー」なんて歌う必要はもうない。だってカラスは街のビルを山だと思っているらしいもの。
 そういえば子どもたちと遊んでいるパートナーセンターの部屋から、福祉センターのガラス張りの塔が見えます。そこへよくカラスが止まってます。決まって一羽はガラスを見てます。鏡だと思って身だしなみを整えているのか、違うカラスがいると思ってけんかを挑もうとしているのか分かりませんが、ひとしきり遊んでいるようにも見えます。
 東京ではお盆は7月ですが、8月にする地方も多いようです。町田は一応東京なので、7月に入るとスーパーにはお盆のお飾りのパーツが並びます。花屋さんにはほうずきも現れます。 
 ほうずきはお盆のお飾りだけではなく、私たちは良く遊びました。青いうちは実も硬いし、第一苦いのです。赤くなるのが待ち遠しかった。熟して赤くなると虫も食べるから虫の食ってないのを探し、丹念に辛抱して赤い実をもみ、ゆっくりゆっくり種と肉を出してからっぽにし、口に含んでビュッ、ビュッっと鳴らしたものです。
 お盆のほうずきはたんばほうずきといって庭や畑で出来たもの、秋のお祭りでは勿論メンコに丸くはさんだたんばほうずきも売ってましたが、私のお目当ては海ほうずきです。千成ほうずきやら薙刀ほうずきなどたくさん種類があって値段もさまざま。一番鳴らしやすいのは団扇みたいな形のもの。でもそれは高かったから一つくらいしか買えなかった。安い薙刀ほうずきをたくさん買いました。
 先日エールフランスのビジネスクラスで帰ってきたときは(偶然の神様のお恵みでしたが)デザートにほうずきがありました。飾りだと思ったら「どうぞ召し上がってください」といわれ、生まれて初めて私の遊び道具を食べました。美味でした。

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