言葉と精神の離乳食★わらべうた    by  文・大熊進子/え・鈴木伸太朗

NO.16

でたでた月が

え・鈴木伸太朗
 重陽の節句も終わり、お月見を待つ頃になってしまいました。小さいときにも私は9月9日の菊の節句を祝った記憶は無いので、多分もうかなり昔から暦の上だけの行事になってしまったのでしょうか、と思いJTBから貰ったカレンダーを良く見たらありました。9月9日は重陽と書いてあり、下に「京都上賀茂神社 重陽の神事・烏相撲。本殿に菊花を奉納、無病息災を祈願。前庭でヤタ烏に由来する烏相撲を開催。神官が烏のように飛び跳ね、鳴き声を真似るユーモラスな神事として名高い」とありました。行って見たいなあと思いますね。
 そういえば先日ちょっと一緒に歌わせてもらったエストニアのエレルヘイン合唱団でもカラスの遊びをステージで披露していました。少女合唱団と言っても大学生ですからわらべうたという感じではなく、何となく重々しい遊びに感じられましたし、最後のしめが指揮者だったので余計重高度が増し、可笑しくて面白くて笑いながら気に入りましたが、ちょっとそれがこの烏相撲と重なりました。
 菊の節句と言っても陰暦だともっと遅くなり、丁度季節感が一致するのでしょう。なんと言っても菊ならば10月頃からの菊人形が頭に浮かびます。そしてお月見が続きます。そろそろ空気も爽やかになり、月も良く見えるようになります。幼児たちも夜の月や昼間の月を見ているらしく、「今日の月は真昼の月だ、ウサギがいたよ」などと話します。月とウサギとくれば文句なしに「ウサギうさぎ なにみてはねる 十五夜お月様みてはねる」という日本古謡が出てきます。
 これから月が綺麗な季節になりますが、影も綺麗に写ります。昔はお風呂がある家なんてあまり無かったから皆銭湯へ行きました。夜、月がこうこうと照っている道を、影法師を踏みながら歩いたものです。昼間は太陽の作る影で影踏み遊び、夜は月影で同じ遊び、飽きることは少なかった時代です。
 月の歌といえば沢山ありますが「お月さん 幾つ 十三七つ……」と歌いだされる厚木の歌。冬にもふれましたが「ほうぼで芝居が始まった〜」というところが大好きです。この芝居が始まるのは何月頃なのでしょうか、今ではないことは確かだと思います、だって収穫やら祭りやらで大忙しですから……。
 多分関西方面の歌だと思いますが「お月さん、お月さん、ほしやほしや、でっさっさん、十五夜さんからにくまれぼうで、そこでほしや、でっさっさん、なんやろかやろ、いけのはたの こふくろ、こふくろ、うしろにおんもん、だいよ、ちりん、からん、ぽてー」というのがあります。あまり意味が解からないようですが、「でっさっさん」「こふくろ、こふくろ」「ちりん からん、ぽてー」など口調が良くて舌を回す楽しみがあります。これを頭のどこかに缶詰にした子供たちの誰かさんが将来、この歌と出会って意味が解明できたとき、その子は嬉しいだろうなあと想像するだけで私は伝えることに喜びをもつことが出来ます。
 コーラスのある練習日に、 明治44年文部省発行の尋常小学校唱歌という教科書を弟子が買ってきてくれました。全部で二十曲ありますが、十一曲しか知りませんでした。私と同じくらい知っている弟子は二人でした。知っている歌のひとつに「月」がありました。
 「出た出た月が圓い圓い まんまるい盆のやうな月が。隠れた雲に黒い黒いまっくろい墨のやうな雲に。また出た月が圓い圓いまんまるい盆のやうな月が」なんか懐かしい歌ですが、これを知らない人にとっては全く何も感慨が湧かないような歌かもしれません。現代的ではないようです。おまけに月をつくづく眺める時間があるのかなあ。

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