言葉と精神の離乳食★わらべうた    by  文・大熊進子/え・鈴木伸太朗

NO.34

おっこんさん

 5月の末に2泊3日で長野へ行きました。長野新幹線は山陽新幹線と同じでご他聞にもれずトンネルが多い。次に行くときは「あずさ」を使って♪「ま〜わり燈籠の絵〜のように〜」を実感しようかなと思いました。いつか山形新幹線に乗ったときはほんの少しですが景色が廻っているのを感じました。
 昔のSLは本当に凄かった。トンネルに入ると窓を閉める。トイレは開放式だから駅で止まっているときは用を足せない。もちろん窓を開けておけば目に見えない霧になって入ってくる。でも夏は暑いから開けざるを得ないし、踏み切りに立っている人の白い服があっという間に黄金色になったなぞという話も聞いたことがあります。とにかく汽車に乗れば駅弁。そして周り燈籠のような景色に見とれ、想像力がかきたてられたものです。
 修学旅行列車で夜行で関西へ行くときも、夜中に点在する家屋のどこかに明かりが灯っていれば「どんな人が住んでいて、どんな思いでこの汽車の響きを聞いているんだろう? 受験勉強をしているのかなあ、読書をしているのかなあ、夜鍋仕事かなあ」などと思いを馳せたものでした。最近は鉄道の沿線は東京に近づくにつれて夜がなくなります。田舎のほうは都市部だけがギンギンギラギラですが、外れのほうはまだ夜が残っていて、「夜だ〜!」と実感できます。山が迫ってきたかと思うと切通しのような情景になって山すそからなだらかな傾斜の後、田んぼが続きます。家が点在し、子どもたちの声が聞こえそうな風景は、見なくなって久しい。
 私は長野県へ疎開したことがありますが、雉の声だの狐にだまされた話など聞いたような記憶があります。昔話がいつの間にか現実になったのかもしれません。そういえば県央のわらべうたにも狐は登場します。♪山越え、川越え、山の山のおっこんさんはいますかね? おっこんは まだ寝ているよ おやおや お寝坊じゃないかいな  山越え 川越え 山の山のおっこんさんは いますかね? おっこんは いま 顔を洗ってるよ おやおやおしゃれじゃないかいな (2番は「座間の古民謡」)という歌です。
 「おっこんは いま 遊びに行くよ」と母狐が言うとおっこんが飛び出して、遊びに来ている子どもを捕まえます。大勢の子どもと1人の母狐、そして1人の子狐によるこのあそびも子どもたちはとても好きなようです。あまり大きくなるとせりふを言うのがばかばかしくなるようですが、幼児は大好きです。特に3歳くらいの何がなんだか分からない、でも口が良く回るようになって来た子供は問いと答えを両方言ってしまいます。大きい子が遊んでいると「私も入れて」と煩いくらいです。まあ入れてあげましょうと思って入れてあげると、問いと答えのルールが全く分からないのです。大きい子達はニコニコしながら見ていますが、子狐役の幼児が追いかけて捕まえに行く場面になるとたいていは幼児も逃げ回ってしまいます。そこで大きい子達は幼児の日本語理解力の程度を知らされます。
 「あなたたちが小さかったときもこうだったかな?」と聞くと大きい子達は「ううん、もっと良くわかってたモン」といいます。美しい過去を持つということは大切なことですし、良いことだと思いますので例え私が知っていても深追いはしないことにしています。それよりも子どもたちと「昔は厚木もこうだったらしいよ、何処の山のあたりかねえ」などと見当をつけるほうが楽しいのです。結構おじいちゃんから狐にだまされた話など聞いてる子どももいるようで、現実とうつつの間を行き来するのです。フランスやドイツの中世の「狐物語」では狐が悪者になっていますが、日本の狐は良い狐もいますね。歌舞伎の「先代萩」でしたっけ? あの狐も素晴らしいと思います。

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