言葉と精神の離乳食★わらべうた    by  文・大熊進子/え・鈴木伸太朗

NO.37

トンボを捕まえる

 ♪とんぼ とんぼ このゆびとまれ とんぼ とんぼ 目をまわせ まわせ まわせ 目をまわせ♪ という歌があります。
 この歌はとんぼを捕まえる歌だと私は思います。ワタシハオモイマスと書いたのは、私はとんぼを捕まえるときに歌は歌わなかったからです。でもこの歌を歌うと、垣根や木の柵に止まったとんぼを見つけた子どもが、抜き足差し足忍び足で、人差し指を立ててぐるぐる回しながらとんぼに近づいていく映像が私の頭の中のスクリーンに見えます。 
 男の子は鳥もちを塗った竿で捕まえたり虫取り網を使ったりしていましたが、私はもっぱら人差し指をぐるぐる回して、そうするととんぼが目をまわすからその隙にぱっと捕まえるものだと信じてそうしていました。成果は薄かったようです。鳥もちで捕まえるのは、とんぼや蝉の羽がべたべたになって、悪くするとすぐ死んでしまうのでやりませんでした。でも男の子たちは夏休みになるとそれが仕事のように虫取りをしていたような記憶があります。ちょっと指に唾をつけて鳥もちを竿に塗っていくのです。あの取った虫たちはどうしたのかなあ、覚えてない。殺生な…、でありましたね。
 過去にいくつかの保育園に行ってこの歌を大人が歌って子どもたちに教えている現場に出くわしたことがありました。すごい違和感を覚えたのですが、それはテンポのことだったのです。大体私は とんぼ、とんぼ、このゆび とまれ と歌うのに4拍取ります。テンポは一打ち一秒くらい、もしかしたらもっとゆっくりかもしれない。しかしそのときの大人たちはまるで行進曲のように一打ち0.5秒くらいの早さでした。まあ伝える人の気分で仕方ないかなと思い、そのことには言及しませんでしたが、やはりそのことはとんぼを見るたびに思い出し、苦い思いが心をよぎりました。
 今分かったことは、歌っていた大人たちがとんぼを取ったことが無かったのであろうということです。マーチのようなテンポでこの歌を歌いながらとんぼに近づけば、とんぼは逃げてしまいます。大体虫取りに行って大騒ぎはしないものです、騒ぐのは逃げられちゃったとき、特に蝉におしっこひっかけられちゃったときなどにね。
 ♪へーびもマムシもドケドケ やーりも刀も 持ってるぞ♪ という歌もあります。これはやせ我慢をしながら竹やぶや草むら、勿論山道もワアワア言いながらドスンドスンと歩くのでしょう。私が住んでいたところは都会でしたから蛇や蝮にお目にかかったことはありませんが、夏休みになって山へ行くときはこの歌を歌ったら安全かもよ、と子どもたちに歌って聞かせます。そうでなくとも最近は幼児が普段でもドタドタと歩いても誰も注意しませんから、こんな歌でドタドタ歩きを体験させ、その次にとんぼ〜を歌って抜き足差し足を体験させ、その次に普通の美しい歩き方に気付かせたらどうかなと思ったのです。   
 困るのはそれを見ている大人が可愛いと思い、賞賛の笑い声を上げることです。子どもは笑われたととる場合もあるのでこれは辞めていただきます。どうも実際にやってみないと、真剣に抜き足をやっているときに突如として笑い声が耳に入ってくると何か変な感じがするものです。しかしそう思うのは私だけかもしれない、子どもたちはひがみもせずに真剣に取り組んでいますから…。
 今年の夏も ♪へーびもまむしも〜♪ を歌い、もし蝮に噛まれたら、血清を注射する、人間のお医者様が近くに見当たらなかったら獣医さんでもいいからね、といったら分かったような分からないような顔をして真剣に聞いてくれました。皆様もお気をつけて、楽しい夏を!

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