風見鶏

  庁内大改革(2007.03.01)

 厚木市長に当選した小林常良氏は、自派の選挙違反事件や就任当初から政治団体の街宣車が押し掛けるなど、多難な船出となった。2日から始まる議会、退職者に伴う人事、6月議会への政策提案など、今後、待ったなしの日程が用意されている▼選挙では6人の議員しか支援が得られなかった議会との関係をどう築いていくかも課題だ。しこりをいたずらに持ち込むという対立関係を避けなければならないのは当然だが、市長提出議案のほとんどが可決され、議会の監視機能が低下しているという昨今の議会の在り方を考えると、議員も市長も対立と緊張を恐れず、どうどうと論戦を交えるという関係が構築されなければならない▼新市長が今後、早急に取り組まなければならないのは、公約実現に向けての組織体制の改革であろう。公約に掲げた「庁内大改革」の断行である。山口市政時代に続発した職員の不祥事を根絶し、尸位素餐や不作為の罪を大量生産する傾向がある公務員のやる気を引き出し、意識改革をどう進めていくのか、大鉈を振るわなければなるまい▼庁内大改革の要となる事務方のトップ・特別職については、市民をなるほどと思わせる人事が期待されよう。一般職員についても事務方がまとめた案を鵜呑みにするのではなく、年功によらず適正な昇進試験を導入すること、人材の流動化に向け職員がFA宣言できる制度を導入できるかなど、かけ声だけでない新市長の力量が試される。

  繰り上げ当選?(2007.02.15)

 投票依頼のために酒食を提供して3人が逮捕された小林常良派の選挙違反事件は、1人が元県会議長という大物の逮捕だけに衝撃が走った。逮捕された小沢金男氏は総括責任者の肩書きをつけていたため、警察は「連座制」が適用されるかどうかを慎重に調べている▼記者会見した小林氏は「市民や支援者に迷惑をかけて、申し訳ない気持ちでいっぱい」と謝罪した。同氏も出席していただけに、ショックを隠しきれなかったろう。当選後、小沢氏は「手弁当で公明正大な選挙ができた」と胸を張ったが、裏でこうした時代的な違法行為が行われていたとは、呆れて物も言えない▼「小林氏は登庁できない」「繰り上げ当選だ」巷では、まったく根拠のないデマが乱れ飛んだ。小沢氏が起訴された場合、裁判で「連座制」が確定すると当選は無効になる。その場合は公選法にもとづく再選挙になろう▼小林陣営では「選対総本部長」という小沢氏の肩書は、名前だけの形式的なもので、実質的な選対組織には入っていないと釈明しているが、検察は小沢氏の役割、行動などを総合的に判断して連座制に持ち込めるかどうかを判断する▼小林氏の初登庁は23日である。3月2日からは議会も始まる。野党多数の議会対策や特別職を含めた人事も待ったなしだ。予算は骨格だから本格的な論戦は小林色の出る6月議会になるが、選挙違反についての釈明は避けられない。多難なスタートとなった。

  小林氏に求められるマニフェストと将来都市像(2007.02.01)

 政策論争が低調だった厚木市長選は、多選阻止を訴えた小林氏が圧勝したが、両者ともに政策がなかったわけではない▼山口氏は、県央のターミナル都市や斎場の建設など「新生厚木の創造」を掲げたが、多選批判が逆風となり有権者の心を引きつけるに至らなかった。一方、小林氏は情報公開、体感治安対策、庁内大改革など11の提言を政策に掲げ、「多選の弊害」から出てきた改革を「多選阻止」にうまく結びつけた▼山口氏は3期12年の実績を訴えたものの、厚木テレコム問題を負の遺産と逃げるだけで責任を回避し、行政として何もしなかった「不作為の罪」や、一部の取り巻きによる側近政治、住民を無視したごみ中間処理施設の候補地選定問題、年金未納全国一など政治家としての資質なども問われ、「市民が主役」「清潔・公平・公正」のスローガンも、空虚な言葉として響いた▼残念なのは両者から「将来の厚木をどうするのか」というまちづくりの具体的な基本構想がいま1つ聞こえて来なかったことである。短期はあるが、中長期の構想が示されていないのである。今後、小林氏には選挙戦では示し得なかった政策の数値目標や達成期限を明確にしたマニフェストの作成、市の将来像をどう描くのかという「あつぎハートプラン」に代わる「総合計画」の策定などが求められよう▼特別職や庁内大改革などの組織改革や人事構想も気になるところだ。3月2日、本会議で行われる新市長の施政方針演説に注目したい。

  政策論争(2007.01.15)

 厚木市長選の告示まであとわずかだというのに、山口、小林両氏の間では政策論争が低調だ。2人とも保守で政策にそれほど大きな違いがあるわけではないが、政策論争を低調にさせているのは、小林氏の出遅れもあるが、2人ともまちづくりの目標とそれを科学化するマニフェスト(選挙公約)に乏しいからだ▼山口氏が掲げる「ターミナル都市」「新生あつぎ、もっとあつく、たくましく」や、小林氏の「元気なあつぎ」「責任ある改革」というフレーズは果たして骨太の設計といえるだろうか? この言葉からは都市のイメージが湧いてこないし、どんなまちづくりをしたいのかも伝わってこない▼山口氏の「ターミナル都市あつぎ」は、羽田や成田、横浜や高速道路などへのアクセスを便利にするというだけの話で、本来の意味でのターミナル都市(終着駅。多くの交通機関や路線が集中する所)とは異なるものだろう。小林氏の「元気なあつぎ」は、状態を指すものでとても政策目標とはいえない▼政策目標に抽象的、情念的な言葉を並べるだけでは、市民に期待感を抱かせることは出来ないし、個々の施策をただ羅列するだけで、達成期限や数値目標が書き込まれていないのでは、「マニフェスト」とは言えないのである▼小林氏が多選の是非だけを争点にするようでは、政治家としての力量が問われかねない。今回の市長選で、山口市長には2つの敵が存在する。1つは小林常良氏、もう1つは「多選阻止」という見えない敵である。多選阻止の受け皿を示すためにも、小林氏は政策論争を仕掛けるべきだろう。

 めぐりあわせ(2007.01.01)

 厚木市長選の最大の争点は「多選の是非」である。権力(人事権・予算編成権・執行権)が集中して長期化すると、独裁的になり、特定の人や業者と結びつき行政の停滞化を招くというのが多選反対論だ▼しかし、選挙で4年ごとに審判を受けている、首長の不祥事は資質の問題で、多選のせいにするのはおかしい。多選を法的に禁止しようというのは、職業選択や立候補の自由を保障する憲法や公選法に抵触するので認められないという反論もある▼多選禁止のレベルをどこにおくかは、議論の別れるところであるが、3選までというのが1つの目安になっている。一般的に当選回数の少ない首長は多選禁止を、多い首長はこれに反論するのが常であるようだ▼かつて兵庫県知事をつとめた阪本勝氏は、自らの任期を2期と定めて8年後に退陣した。阪本氏は退陣にあたって 「水がよどめばボウフラがわく。行政の良識と妙諦は常に清く、激しい流れの中に身をおくことである」と述べている▼阪本氏が残した名言がある。「種子をまいて去る人もある、花の咲きにおう宴を楽しむ人もある、またその結実を祝う果報者もいる。みな、それぞれのめぐり合わせだ。自分のまいた種子を実るのを見たいのが人情だが」▼実に味わい深い言葉だ。要は政治家としての判断であり、潔さであろう。多選問題は政治家の清潔さと節度に尽きる。清潔さと節度がなくなったら辞めたほうがいい。

 多選の是非(2006.12.01)

 来年1月に行われる厚木市長選に出馬表明した小林常良県議は、長期政権は弊害が出るとして「多選の是非」を有権者に問いたいと述べた。小林県議は公約として「多選禁止条例」の制定を目指すとしているので、市長選の最大の争点になることは避けられない▼4選を目指して出馬表明をしている山口市長も、12年前の市長選出馬の記者会見で「4期目以上は多選とされるが、私もそう思う」(神奈川・読売新聞)と述べ、当時5選に意欲を示していた足立原市長を牽制、多選批判を展開した▼だが10月2日の出馬表明では「私の口から(3期までということ)は一度も言ったことはない」と述べ、11月21日の定例会見でも「多選は政治家の資質の問題。短くても駄目な首長はいっぱいいる。市民が判断すること」と当時の発言とは異なった見解を述べている▼官製談合事件で福島や和歌山の両県知事が逮捕されるなど、首長の多選問題はこれまでになく世論の関心を集めている。政党でも民主・公明は多選禁止。自民党でさえ4選を目指す都道府県知事、政令市長を推薦しないことを決めている▼多選禁止が条例化されれば、首長は3期12年で仕事をしなければならない。山口市長のように「12年で土台を作った。これから家を建てる」などとのんびりしたことは言っておれなくなる▼清川村の山口村長は2期目だが、先頃、今期限りで出馬しないことを表明した。多選の是非を有権者が判断する前に、自ら示した見識に敬意を表したい。

 土台づくり(2006.10.15)

 厚木市の山口巌雄市長が来年1月に行われる市長選に、4選を目指して出馬すると表明した。記者会見では首長の多選問題が質問に出たが、今回の選挙は多選問題が争点になるのは避けられない▼多選による弊害は、首長は一人で絶大な権限(人事権・予算編成権・許認可権など)をもっているため、政権が長期にわたると独裁的になり、業者と癒着が起こるというものである。要するにに水がよどめばボウフラが湧くという考えだ▼福島県の談合問題や岐阜県の裏金問題などは知事の多選による弊害とも指摘されている。平成15年3月、東京杉並区の山田区長は、「区長は通算3期を超えて在任することのないよう努める」という区長の在任期間に関する条例案を提出、制定にこぎつけた。この問題については、憲法や法律上の制約もあるが、以後、いくつかの自治体で首長の多選禁止に関する条例が成立している▼山口市長は会見で「家を建てるならば土台まで出来上がった、今後は市民の求める家を立ち上げたい」と出馬の 抱負を述べたが、土台を作るのに12年もかかるのだろうか。もしそうだとするなら、上物にはあと何年かかるのだろう?▼1期目で土台作り、2期目で家を建て、3期目が仕上げというのが3期12年説の根拠だが、いくらなんでも土台に12年はかかりすぎである。首長の中には2期で土台と家づくりを立派に成し遂げた人もいる。要は本人の力量なのだが、「これから家を建てる」と聞くと、「えっ、冗談でしょう」と言いたくなる。