言葉と精神の離乳食★わらべうた    by  文・大熊進子/え・鈴木伸太朗

NO.35

てべしょ

 県央のわらべうたの中に ♪てべしょ てべしょ てべしょの中に 憎い野郎めに くれたい物は 蛇の生焼け とかげの刺身 さっさと おくりゃれ 唐辛子 唐辛子 一石 二石 三石 五石のお釜で 茹でこぼし 茹でこぼし 茹でて晒して 俎にのせて あぶらを切るよに ブッキリ ボッキリ ブッキリ ボッキリ♪ というのがあります。
 解説には「てべしょとは何かハッキリしない。小さくて浅い皿のオテショ(御手塩:手塩皿)に近いのではないか」とか、「その中に蛇の生焼けやトカゲの刺身を入れてやりたいと歌っているから、多分男の子が好んで歌ったものではないか」とあります。『あぶらを切るよに』というのは油菜のことだそうです。
 子守唄や民謡に中にも仕事の辛さ、厳しさを歌ったり、雇い主を批判した歌詞が多く見られます。それを真似たのか、わらべうたの中にも悪口歌や嫌がらせ歌といえそうな歌があります。
 私はずい分悪口歌を歌ったり、歌われたりしてきました。「馬鹿かば間抜け お前の母さん でべそ」とか「ごめんそうろう はげそうろう〜」とかね。そんな歌を歌っているのを大人に見つかればこっぴどく怒られましたが、それでも懲りずに歌い、耳を澄まして人が歌っている悪口歌などを集め、良い時に歌っては鬱憤を晴らしたものです。そう、悪口歌は子どもも大人もストレスを解消する手段だったのではないかしら? 心が風邪引いちゃったとき、薬屋さんで売ってる薬ではきかないからね。大人も心得たもので「お母さんなんか嫌いよ!」といえば「キライで結構好かれちゃ困る」とか「こんなおかずは好きじゃない。もっと他のものないの?」と我儘を言えば「厭ならよしゃがれ よしべのこんなれ ぺんぺんひきたきゃ げいしゃのこんなれ」とか歌われて、ご飯をサッサと片付けられたり。「ハイハイ、いただきます、いただきます」と言って食べなければ他には何も出てこないのですから。こういう歌は学校で習うでもなく、大人が教えてくれるわけでもなく、自然と流れてきたものを耳が捉えて自分のものにしてきたのでしょう。てべしょは私の歌ではないので歌ったことはありませんが ♪おてぶしてぶし てぶしの中に 蛇の生焼け 蛙の刺身 いっちょばこやるから まるめておくれ いや♪ というのはよく歌います。意味不明、何のために歌うかも良くわかりませんが、歌った相手になんともいえない、愉快ではない感情を起こさせるのが目的であることは確かです。しかし私の歌い方が良いのかどうか分かりませんが、幼児に歌うと始めは大抵ポカ~ンとします。その後何となくにや〜っとして困ったような怖いもの見たさのような不思議そうな表情をします。蛇を食べるのか、蛙を食べるのか、考えているようです。確かにこの歌も嫌がらせるために悪がきたちが可愛い女の子(生意気な女の子?)に歌ったのかもしれません。でも幼児に「蛙の唐揚げは柔らかくて美味しいよ、ウサギみたい」とか「昔、中野に蛇さんがあってね、お店のショーウインドに蛇がたくさんいたの。食べたい蛇を料理してくれた。ウナギも蛇も似てるじゃない?」などと普通の顔をしていうとみんなも納得するようなのです。誰かがストレス発散のために歌ってくれればそれはそれでいいことだしね。気味の悪い歌を歌えば暑さ凌ぎにも役にたつし。そういえば最近は団扇も扇子もあまり出番が無いようです。クーラーが普及して、扇風機も少なくなりました。お扇子は外国に行って日本女性が爽やかにさっと開いて扇ぐと持てますよ。というわけで私はいつも夏が近づくと幼児たちにお扇子を開かせて扇がせて見ます。今年も既にひとつ壊されました。まあ数本壊さないと優雅に開いて美しく扇ぐまでにはならないでしょう。

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